今こそ振り返ろう、鉄血のオルフェンズ。

えー、基本的に最終回のネタバレを含みます。
一応隠しておきますので、注意してくださいね。
因みに今日、自分の中での音楽はこれです…


実は、こうしてブログで一つの作品を取り上げることは久々です。
プロの作家のリテラシーとして「黙して語らず」があるので。
炎上を避けるために、寡黙であることが作家には要求されます。
大御所先生になればまた別ですが、自分みたいなのは特にですね。
まあ、今は失業中みたいなものなので、気楽な身分です。
そんな訳で、さらりと鉄血のオルフェンズを振り返ろうかなと。
因みに自分は大満足で、とてもいいガンダムだと思いました。
その理由の一つが、今までにない作風を貫いたことです。
こうした野心的な冒険作が生まれるのも、ガンダムのいいところ。
普通の作品ではなかなか、ゴーサインが出ない筈なんですね。
鉄血がライトノベルだったら、間違いなく編集会議でボツです。
少年兵たちが自立と幸福のため、のし上がって世界を変える。
ここまでならいいんですが、主に二期の展開がまずいかなあ?
ラノベなら悪い大人と全面戦争で派手に勝つ必要があるでしょう。
そういう物語を、商業ベースでは求められると思います。
実は鉄血みたいな話、ラノベ作家はみんな書きたいんですよ。
ただ、それは中高生向けとして相応しくない、それもわかります。
やはり十代の子には努力!友情!絆!愛!エロス!をですね(笑)
そんな中で、鉄血が無常観あふれる現実を描ききったんです。
つまり「生まれと育ちで全部決まる」という社会の縮図ですね。
三日月や昭宏が死んだのも、彼らが貧しく生まれて学がないから。
嫌な話ですが、そういう彼らはそれでも全力で生ききった。
でも、そこには多種多様な選択肢はなく、悪手しか選べない。
そういう子供たちは現実の我々の世界にも無数に存在します。
それを見せつけられたのも、ガンダムというコンテンツの力。
ガンダムは常に、新しさを探って求めることを許してくれます。
ぶっちゃけ、愉快痛快ガンダムが見たきゃ別のシリーズでいい。
でも、毎回リアル戦争やって、仮面キャラと戦って、乗り換えて。
王道だからこそ許されるマンネリも求められますが、他にも一つ。
宇宙世紀物が古き良きガンダムをやる一方で、可能性が欲しい。
新しい方向性、多様性を求めて鉄血は生まれたんだと思います。
その試みを自分は尊いと思い、その結果にも心を打たれました。


オルフェンズ(ORPHANS)、日本語に訳すと「孤児たち」ですね。
主に鉄華団の子供たちを指す言葉ですが、それだけではないんです。
鉄血の世界では、多くの者たちが孤児として生きていました。
例えば、クーデリア…彼女もまた、時代が生んだ孤児でしょう。
裕福な家と高等教育を持ち、純粋な善意だけで起った革命の乙女。
彼女は鉄華団に命を託す中で、自分の軽薄さを悔い、目覚めます。
しかし、鉄華団を家族だと思えてしまうのは、やはり孤児だから。
父親にギャラルホルンへ売られ、殺されそうになったクーデリア。
彼女に関する、とても印象深いシーンを自分は記憶しています。
バルバドスがなければ五体満足でいられない、三日月との一コマ。
アトラは、彼女も孤児なのですが、三日月と子をなします。
そのことに疑問を抱かず、過程をすっ飛ばしたアトラ…
思えば、アトラには恋がわからないんだと思うんですよね。
生きるのに必死な人間は、恋はなかなか難しいんです。
それよりも、同じ境遇の中での本能的な愛を育んでしまう。
初恋のまま、恋心を育てる前に子供を作ってしまったんです。
そのことにクーデリアは驚き、正直少し引いてたようですが…
そんな彼女もまた、三日月とアトラと抱き合うことを幸せだと言う。
大金持ちの御令嬢、地位もある少女が、それだけで幸せになれる。
三人で抱き合う終盤のシーン、確かにクーデリアも孤児だった。
そんな彼女がラストで、火星の未来を切り開く結末は印象的です。
アトラに暁が宿ったように、クーデリアにも確かなものが残った。
彼女はこれから、暁が三日月のようにならない世界を切り開くでしょう。


さて、鉄血を語る上で絶対に欠かせない孤児が一人います。
それがマクギリスです…彼もまた、三日月たちと同じ孤児でした。
浮浪児から夜をひさぐ男娼になり、イズナリオに買われます。
彼は生まれこそ貧しかったが、教育には恵まれていました。
しかし、それを得る代わりに性を搾取され虐待されていたのです。
彼に興味がある方は、皇国の守護者という小説がオススメです。
漫画版は鉄血のキャラデザをした伊藤悠先生が執筆されてます。
アンドレイ・カミンスキィというキャラ、少し似ていますね。
で、屈折した少年時代でマクギリスが縋った逃げ道があります。
それが、アグニカ・ガイエル英雄伝説であり、バエルでした。
暴力と権力、そして財力によって虐げられてきたマクギリス…
彼は、その全てを自力で勝ち取った男に憧れるようになります。
そのまま、ガエリオやカルタといった友人に恵まれていながら…
「己の力で全てを手にする」という方法論に執着していきました。
その決意を鈍らせないため、友人たちををも否定、遠ざけたのです。
視聴者から見て、彼の行動が真に理解されるのは難しいでしょう。
現在の日本では、マクギリスのような生い立ちは想像し難いです。
しかし、人間は尊厳を踏み躙られた時、屈折して歪んでいきます。
一見して豊かで恵まれていたマクギリスは、人としての尊厳を奪われた。
それは、貧しく厳しい生活の中で己を見失わぬ鉄華団と対照的です。
人間は脆い生き物で、人間として扱われぬ時に闇に堕落するのです。
三日月たちは仲間同士で家族でいられて、お互いにそれを防ぎました。
しかし、マクギリスは友人を遠ざけ、力でそれを跳ね返そうとした…
だから、破滅的な野望を燻らし、無謀な計画を実行に移したのです。
しかし、バエルは錦の御旗である以上の意味を示しませんでした。
錦の御旗、つまり「大義」であり「正義」、そして「正当性」です。
「権威」という物で、これは「権力」をブーストする装置です。
しかし、実際に権力を持ち実効性と伴わぬ者には、無用の長物…
そのことをマクギリスは全く理解していなかったように思えます。
そして…私感ですが、理解は勿論、必要とさえしていなかった。
そう思えてならないのは、自分だけでしょうか…恐ろしい男です。
アグニカの魂が宿るバエルで、独力だけで戦えれば満足だった?
自分自身、まだ彼を完全には理解できず、哀しい男に思えます。
ですが…何故か惹かれる、魅力的に思えるのも事実ですね。
マクギリスは結局、自分を貶め辱めた全てを、独力で手にする。
手にできないまでも、独力で脅かせればよかったのかもしれません。
彼がもし、ガエリオやカルタと認め合って正当な力を発揮したら…
ギャラルホルンの改革はもっとスムーズで迅速だったと思えますね。


最後に、自分が特に気に入ってたキャラについても少しだけ。
シノとタカキ、この二人がとても好きで…ええ、BL脳なんですけど。
こうしたジェンダーのデリケートな話も、さらりと入れてきた鉄血。
極限状態の少年兵の中から生まれた、同性を想う恋心、いいじゃない。
作品のテーマ的にも、鉄血は少し高い年齢層を見据えてた気もします。
意識的に「少し大人のアニメ」にしていた感じはありました。
そんな中、今の大人に認めて欲しいものの一つとして、さりげなく…
同性愛や、それを向ける少年、受け止める少年の表情、感情、仕草。
シノはただ受け止め、その先を保留したまま逝ってしまいました。
ただ、二人のいた鉄血の日常が、とても爽やかだったのがよかったなあ。
次に、昭宏…彼は実は、今までのガンダム主人公を司ってるんです。
家族を失い、恋人を失い、ガンダムに乗り換え、新たな家族ができる。
三日月が一人で完結しているタイプの主人公だからかもしれません。
今までの歴代主人公がこなしてきたイベントを、一人で背負いました。
悲しいことばかりで、少し可愛そうでしたが、格好良かったです。
昭宏にはラフタとくっついて、沢山息子や娘に囲まれて欲しかったな…
そんな彼が最後、主人公の三日月に付き合う道を選んで、散った。
最後の最後、最期で三日月と昭宏、二人がガンダム主人公だったんです。
あと、ジュリエッタ…彼女のことをずっと、ずーっと心配してました。
レギンレイズジュリアが、露骨にグレイズアイン系のMSなんですもん。
名前の通り、ジュリエッタ阿頼耶識コアになっちゃうのかな、と。
そう思ったんですが、違う道を選んでくれたことが嬉しいです。
最後、ガエリオといい感じになってて、本当に嬉しかったですね。
あと、ラスタル…この人、嫌いって言われて当然の人なんですよ。
本当に、酸いも甘いも知ったる男、老獪な大人で、大物です。
汚いこともするし、戦術的にも戦略的にも利口で賢く、ずるい。
マキャベリズムの基本「目的のために手段を選ばない」の典型です。
そういう大人が最後に勝利しちゃう、これが鉄血のラストでした。
それを、死んだ三日月と並べて憎らしく思うのは当然のことです。
しかし、オルガがそうだったように、彼も一軍の将、群れの長です。
彼もまた、背負った家族や仲間のために、最善を尽くしただけかも。
それと、イオク様ェ…お前さん、なんで最後の最後に死ぬんだよ(笑)
ただ、因果応報という言葉もあって、昭宏に討たれてスッキリもする。
しかし、能天気な無自覚馬鹿だった時期は迷惑を振り撒き生き抜いて…
最後に成長を見せて覚醒したあとは、あっさりと死んでしまう。
彼の生き様もまた「憎まれっ子世にはばかる」を地で行ってました。
憎めないんですよね、彼みたいな人…ただ、散り際も見事だったな、と。
あとは…ラフタ、アストン、名瀬の兄貴にアミダ姐さん…ありがとう。
誰もがみんな、自分のために戦い、誰かのための自分を活かそうとした。
その生き様の一つ一つが、胸を打った…その感動は忘れ難いです。
本当にいい作品でした、素晴らしい試みだったと断言できます。
スタッフの皆様、声優の皆様、関わった全ての人に感謝を。