風車は今も回り続ける

人間風車の異名を轟かせた往年の名プロレスラー、ビル・ロビンソンが亡くなった。
ながやんにとって、ビル・ロビンソンはプロレスリングの一つの理想だった。
ガチンコのレスリング技術とサブミッション、キャッチ・アズ・キャッチ・キャン…
そしてキャッチーで説得力のある必殺技、ダブルアーム・スープレックス
真剣勝負を感じさせる(あくまで"感じさせる")技巧派の第一人者だった。
ご冥福をお祈り申し上げます…人間風車よ永遠なれ、ありがとう…そしてさよなら。


プロレスが好きだった人間にとって、その時代のレスラーの訃報はこたえる。
橋本真也三沢光晴カール・ゴッチ…そして今度はビル・ロビンソン
皆、子供だった俺にとってのヒーローだった、怖くて強いプロレスラーだった。
1990年代に入り、バーリ・トゥードの流れが格闘技業界を活性化させる。
それ以前にはプロレス界でも、Uインターが新しい試みを模索していた。
果たして誰が一番強いのか、本当に強い格闘技はなんなのか…?
そんな中、グレイシー柔術のセンセーショナルな登場が世界を震撼させる。
蘇りし古の柔術、相手に馬乗りになっての顔面パンチ…今で言うパウンド。
そんなことが許されるのか、あの金網の中はいったいなんなんだろうか?
オクタゴンリングの中が過熱する一方、四角いジャングルも変わっていった。
長くなるので省くが、日本のプロレスのリングは、極めて特殊な特化社会だ。
そこはオクタゴンほど殺伐でもなく、アメリカンのリングほどエンタメでもない。
歌舞伎や狂言のような、一種古典芸能のような趣があって、俺は好きだった。
そういう流れの中で俺も大人になり、自然とプロレスと距離が開いてしまった。
馬場さんが亡くなったのを契機に、ぱったりとテレビ中継も見なくなったのだ。


話を戻そう、ビル・ロビンソンにはさまざまなエピソードがあって面白い。
片目が義眼なので、義眼の方向に回られると見えない、とかね。
得意技はワンハンド・バックブリーカーやショルダー・ネックブリーカー。
ここぞという時のパンチ!(反則だが結構昔のレスラーはグーパンチする…笑)
グランドテクニックは神の領域、クルックヘッドシザースやダブルリストロックが上手い。
そして代名詞の必殺技、低空に弧を描く美しいダブルアーム・スープレックス
そんな彼が、カール・ゴッチとバーリ・トゥードの試合を観戦したという逸話がある。
オクタゴンの中で殴り合い蹴り合い、馬乗りになって顔面を殴打する凄惨な試合だ。
その試合内容を見て、二人は…肩を竦めて苦笑していたと言われている。
それは、神様と呼ばれたレスラーと、それに並ぶ男の、おそらくは本音だろう。
俺が思うに、それはビル・ロビンソンたちにとって「やればできること」だったのだ。
グーパンチOK、ただやっつければOKという試合なら、彼らだってできたのだ。
だが、知性がないとプロレスは成立しない、そういうものなのだと思う。
だから俺は、誰が相手でもビル・ロビンソンは投げて極めて勝つと信じてる。
そういう幻想を夢見て、それを思い描く楽しみを与えてくれるレスラーだったのだ。


プロレスラーはね、本当はみんな強いんですよ…でもプロレスは喧嘩じゃないんです。
相手の100%を引き出して、相手の100%を耐えてみせて、101%で勝つ文化なんです。
そういうことがちゃんとできて、試合に説得力のあるレスラーがまた一人旅立った。
天国じゃ今頃、カール・ゴッチと飲んでるな…グレープフルーツジュースをな。
そして名だたるレスラーと試合をするんだ…橋本や三沢、ビガロとかゴディと。
テーズやゴッチと一緒に、下界の若きレスラーを見守ったりするんだ、きっとね。