『紅の豚』という夢、幻想

ながやん、ジブリ映画の中では紅の豚が一番好きである。
次点で魔女宅、ラピュタもののけナウシカかな?
耳をすませばも好きだけど、あれは過去の自分見てるみたいで(笑)
あと、ナウシカは厳密にはジブリ映画じゃないけど、大好きです。
で、紅の豚…これね、本当に素晴らしい映画だと俺は思うよ。
同時に、この物語を契機に宮崎駿監督は変わったと思うんだ。
そのことを今日は、自分なりの考えとを交えて話すね。


実は以外に思われるかもしれないけど、紅の豚の興行成績は、よくない。
や、素晴らしい作品だともう一回言うけど、それと別の話ね。
良し悪しを別にして、単純に「あまり儲からなかった」作品なの。
ここからは俺の持論だから、共感も理解もしてもらえないかも。
俺は、商業創作以外の創作は、良し悪しというものが存在しないと思う。
絵や小説、漫画、音楽、舞台劇、その他もろもろ…全部そうじゃない?
マチュアや趣味では、技術論は語れても、イコール良し悪しじゃない。
そして、技術が未熟でも稚拙でも、愛される作品は愛される。
100人が、1,000人がダメ出ししても、いいと言う人はいるかもしれない。
だが、商業創作は違う…商業作品には「良い」「悪い」が存在する。
それが、ぶっちゃけて言うと「売れたか」「売れないか」なんだ。
売れた作品は良い作品、売れない作品は悪い作品だと言わねばならない。


何故、売れなかった作品が悪い作品なのか、ちょっと説明するね。
ここでは「完成度」や「技術」「発想」は関係ないんだよね。
商業作品は、売ることを前提にした商売、だから売れなきゃいけない。
勿論、売れるためには作品自体のクオリティは欠かせない要素だ。
でも、それ以外の要素が複数に絡み合い、密接に折り重なっている。
いいだけの作品、ただの名作では「売れる作品」「良い作品」ではない。
逆に、誰もが批判して非難しても、売れればそれは「良い作品」だ。
なぜかというと…商業創作はほぼ全て、チームプレイだからだ。
作家一人が客を相手にしてるなら、全く関係ない世界なんですが…
今の流通経済の中では、作家は多くの人間に支えられている。
編集さん、広報さん、営業さん、絵師さん、校正さん、etc、etc…
こうした多くの人と、利益を共有しているという現実がある。
そして、売れない作品は、自分は勿論仲間も利益が少ないのだ。
利益が少ないと、作家は次の創作の環境が悪くなってしまう。
生活に困窮するのは勿論、仲間が減るかもしれない…食えないから。
まして、共同作業での創作、アニメだったら…どうだと思う?


紅の豚は、作品としての完成度、内容、テーマ、どれも素晴らしい。
ただ、売上はよくなかった…そのことが、宮崎駿監督にはショックだった。
紅の豚は、飛行機と海と冒険ロマンという、氏の趣味が溢れた作品だ。
それが商品として成立しなかった現実に、氏は少なからず驚いた筈だ。
はっきり著作で「好きなことだけやってちゃダメだ」と言ったしね。
紅の豚が売れなかったことは、イコール創作仲間が食えないという話だ。
そこまで極端ではないけど、商業創作というのは厳しい世界なのだ。
だから、宮崎監督はそれ以降、女性や子供を視野に入れた創作をする。
もののけ姫も一見して宮崎節全開の趣味映画っぽく見えるが…
実は、イケメン主人公や芸能人声優と、非常に戦略的な一面がある。
耳をすませばハウルの動く城猫の恩返し、全てわかりやすい。
中年同士が飛行艇に乗ってロマンに生きるという、狭い世界を捨てた。
捨てた、は言い過ぎかもしれないけど、趣味だけの作風をやめた。
これは英断だし、寂しい気もするけど、結果的によかったと思う。
風立ちぬで引退するまで、ジブリはちゃんと生き残ったから。
泥の豚とかアニメ化してたら、ジブリは潰れていたかもしれない。


あ、さて…紅の豚という作品が、本当に好きでたまらない。
第二次大戦前夜のアドリア海を舞台に、賞金稼ぎの豚が飛ぶ。
このアニメ、実は物凄い冒険的な試みも大胆に取り入れている。
自分が驚くのは「アニメのアドバンテージ否定」である。
アニメの主人公は格好いい…見た目がまず、格好いい。
当たり前である、イケメンで当然、美形で当然…創作だから。
だが、その前提をあっさりと紅豚は捨てているのだ。
主人公は豚、中年、デブ、短足…見た目は凄く、悪い。
女性も子供も一目でわかる、綺麗な主役記号を廃したのだ。
そうすることで初めて「格好いいとはこういうことさ」となる。
そして、主人公が豚であることを、作中でフルに活用している。
戦争へひた走る者たちに「そういうのは人間同士でやんな」だ。
豚であることで、さり気なく人間を風刺し、孤高のヒーローとなる。
ヴィジュアル最優先の娯楽で、見た目を捨てて実を取っているのだ。
小説で言えば、あえて「読むとわかるイイ本」って訳だ。
そして、そうまでして見た目が悪いことを、ちゃんと活かしてる。
これは、なかなかできない…まず、企画として通り難い。
凄いなあ、って思う…ジブリ宮崎駿監督も凄いですよ。
そして、ストーリーがとても美しい、絵も美しい、音楽もいい。
語り尽くせぬ素晴らしさを知るからこそ、売れなかったこともわかる。
俺が映画館で熱中してた時、一緒の妹はポカーンとしてたもんね。


ぶっちゃけて言うと、商業創作では「わかる人だけわかって」は駄目だ。
よく「細々とでいいから長く」なんていう人がいるけど、それは無理です。
全部一人でやるならいいけど、仲間と利益を共有できないと続かない。
売れて初めて、創作は続けられるし、やりたい創作も可能性がでてくる。
仲間と一緒に稼いで山分け、そういう実績があると創作は豊かになる。
過度な商業主義だと思う人もいるだろうし、それはそれで悪くない。
ただ、創作をなりわいにしたら、一人じゃない、一人ではできない。
それは頼もしくありがたいし、責任も生じることなんだよなあ。
自分は生産性が低いお荷物なので、そこは本当に申し訳ないと思う。