狂気の時代が産んだモンスター


みんな大好き、ラリー界のレジェンドカー…ランチアデルタ。
でも、なんかこのランチアデルタ、ちょっと違わね?…とお思いのアナタ!
お目が高い、そうです…これは普通のデルタ、インテグラーレではない!
これぞ、後に「狂気の時代」と呼ばれたグループBのデルタS4なのです。
今日はこのグループB全盛期に生まれた徒花の話を少ししましょう。


グループB、それは「無差別級、魔改造OKのバーリトゥード」でした。
レギュレーションすらノリで決められていた感のある、祭でした。
実際は真面目に真摯に、大勢の識者が知恵を巡らせたのですが…
彼らが出した答えは、最終的にはグループB廃止という結果だったのです。
それほどまでにグループBは、危険な狂ったカテゴリーだったのです。
極限チューンのグループBカーはもはや、市販車ベースではありません。
見た目のガワだけ似てる別物…文字通りのモンスターマシン。
例えばこのランチアデルタS4、最大馬力はなんとピーク時600馬力!
車重は800Kgちょいなので、ウェイトレシオは恐ろしいことに…
エンジンは縦置きリアミッドシップにレイアウトしております。
そう、ハッチバックなのに運転席の後はエンジンルームなんですね。
そしてバケモノの心臓はターボチャージャースーパーチャージャーがセット。
ツインチャージャーシステムを搭載というから、とんでもなく恐ろしい。
結果、デルタS4はピーキーを通り越してクレイジーな操作性で暴れます。
乗り手を選ぶどころかふるい落とす、誰も乗りこなせない魔性のマシン…
ですが、その性能に魅了された各メーカーが開発競争の加熱、激化。


そして悲劇は起こります…ツール・ド・コルスでデルタS4がコースアウト。
猛スピードで崖下へ転落炎上、二人の選手が帰らぬ人となりました。
ですが、業火の中へと消えたデルタS4が照らすのは、地獄への一本道…
その後もグループBのモンスター達は事故を繰り返し、観客すら犠牲に。
そうしてついに、WRCはグループBの継続を断念、廃止するのです。
どうしてこの悲劇が起こるまで、誰も止められなかったのでしょう。
それはやはり、スピードに魅せられた業深き者達への断罪なのだろうか?
しかし、それでも俺は思うのだ…この歪でグロテスクなマシンが…


とても美しい、と。