今こそガンダム・センチネルを語ろう

昨晩、ボードゲームの定例会で楽しい時間を過ごした時、話題にのぼった。
TRPGガンダム・センチネルがあることは、俺もちょっと小耳に挟んでたな。
たしか、女性士官がTRPGにはいるので、ファンの間で物議をかもした筈だ。
何故、そんなくだらないというか、些細なことが話題になっているのか。
俺みたいな門外漢の耳にまで入ってくるのは、何故だろうか、というと…
それは、ガンダム・センチネルという排他的で閉鎖的な心地よさに起因する。
今日は、そんな閉じた世界の完成度について、少し語りたいと思う。


ガンダム・センチネルは、模型雑誌モデルグラフィックスで展開された。
ZとZZの間の時代に起こった紛争をテーマにした、サイドストーリーである。
ニュアンス的には、OVA作品の0083にとても近い、そんな感じである。
逆に言えば、センチネルをマイルドに商品化、映像化したのが0083なのだ。
まず、センチネルはガンダム作品における「ニュータイプ論」を無視した。
厳密には向き合って真面目に取り組んでいるが、それは後述とする。
ニュータイプ論や人間ドラマよりも、ミリタリー色とメカニック設定を重視したのだ。
結果、模型雑誌発の「立体物、プラモから語るガンダム」として、成功を収めた。
今では、映像化されてないけど公認、公式の外伝として一番有名である。
正直知名度で言えば、アニメになってないけど有名なのはセンチネルとクロボン。
それくらい、ファンに愛された作品だと俺は認識しているが、間違っていないだろう。
当時は新進気鋭のメカデザイナーだった、カトキハジメさんが徹底参加したガンダム
兵器としての表情を強調されたメカデザインは、当時のファンに受け入れられた。
自分も大好きだし、友人に「センチネルだけは別格」という愛好者を知っている。
ガンダムという作品は、商品化、とくに「ガンプラ化」という呪縛を免れない。
そういう中で逆に「ガンプラとして世界観を作る」というアプローチ、これは素晴らしい。
今日の日記では、そんなガンダム・センチネルの話をくどくしていこうと思う。


☆三分で分かるガンダム・センチネルのストーリー
UC0087、地球至上主義者ティターンズによるグリプス戦役が幕を閉じた。
しかし、敗北を受け入れられぬティターンズ残党が、テロ結社ニューディサイズを名乗る。
一流パイロットたちの集うニューディサイズは、MS工廠のある小惑星ペズンを武力占領。
ペズンを拠点に、月の中立都市エアーズ市を取り込み、反地球連邦テロを起こす。
それに対し、地球連邦軍はへっぽこ問題児パイロットだらけの部隊をしぶしぶ派兵。
ガンダムタイプのMSを大量配備された、α任務部隊が鎮圧にあたることになる。
激しい戦闘の中、ニューディサイズはエアーズ市とペズンを放棄、敗退する。
アクシズからの使者ネオ・ジオンからの武器供与を得たニューディサイズ、起死回生の一手…
それは、地球連邦政府の議会があるダカールへの局所的コロニー落としだった。
α任務部隊は苦しい状況の中、コロニー落としを阻止すべく最後の戦いへ挑む!
大気圏、アースライトの輝きの中…男たちの戦いは終局を迎えるのだった。


まず、センチネルの魅力の一つが「ガンダム神話への挑戦」である。
一年戦争、そしてグリプス戦役で異様で異常な戦果をあげた、ガンダム
連邦軍上層部が驚き恐れるあまりに、神話と化した怪物MSへの挑戦があった。
センチネルのテーマの一つが、「ガンダム神話への挑戦」、これだったのである。
まず、主役MSのSガンダム、いわゆるスペリオルガンダムが挑戦的だった。
所々の事情があって、SガンダムのSは「スペリオル」のSとなったが…
もともとはSは「スプリーム」…最強という意味のSを関していたのだ。
最強のガンダムを、模型業界から発信する…そういう挑戦がまずあった。
Sガンダムは結果、ZとZZの合間という微妙な時代に生まれながら…
非常にカタログスペックの優秀な、一種のバケモノMSとして生み出された。
数々のオプション兵装を換装する、フレキシブルなマルチロールMS。
実は、UC世紀における性能だけを言うなら、Sガンダムは最強の一角である。
ユニコーン逆シャアV2ガンダムが出た今でさえ、その地位は変わらない。
強力なビーム兵器に準サイコミュ誘導兵器、そして合体変形機構。
オプション兵装ではIフィールドバリアを持ち、デンドロビウムじみた姿すら持つ。
なにより、ALICEという謎のシステムを搭載し、謎パワーで動くのだ。
ここに、当時の製作者たちの挑戦がある…それは「問いかけ」だ。
グロテスクなまでに高スペックで、おもちゃメーカーが喜びそうなギミックが満載。
そういう「ぼくがかんがえたさいきょーガンダム」を、あえて作ってみせたのだ。


他にも、センチネルの魅力は人間ドラマにもある…なんと、女性キャラがいないのだ。
女性キャラ不在、つまりヒロインのいない物語…今では考えられない。
多くの男性がメインターゲットのコンテンツで、ヒロインがいないというのは言語道断だ。
それをセンチネルはやってのけた…ひたすらに汗臭い男の、漢のドラマをあえて作った。
なにしろ、唯一の女性キャラ(と思える存在)が、ガンダムに搭載されたIA、ALICEなのだ。
戦争とは一種、男性的な側面を持つものなのかもしれないし、間違いでもないだろう。
だが、不自然なまでに、センチネルは女性を、母性を、萌えを否定していた。
敵も見方も野郎だらけ、むさくるしい…本当に暑苦しい戦いが繰り広げられる。
主人公が疲れたり悩んだりした時、慰めてくれるヒロインがいないのである。
実は俺は、センチネルが映像化されない原因の一つは、これだと思う。
ガンダムにはヒロインがつきもの、戦場の花は絶対に必要だと思う。
すくなくとも、商業用のコンテンツならば、絶対にヒロインは必要だ。
だが、それを排した結果、センチネルは非常に特異な作品となったのである。


他にも、センチネルの面白みは各所に存在する…例えばネーミング。
キャラクターのネーミングには実は、一定の命名規約があるのだ。
敵であるニューディサイズパイロットたちは、全員が新選組隊士のアナグラムだ。
対する主人公たち、α任務部隊のパイロットたちは、幕末志士のアナグラムである。
主人公リョウ・ルーツは、坂本龍馬のもじりだったりとか、そういう感じだ。
物語の背景には、時代を否定する軍閥というストーリーラインが存在する。
それを製作者たちは、幕末の新選組になぞらえたわけで、非常に面白い。
あと、センチネルで一番俺が面白いなと思うのは、やっぱりMSだ。
敵のニューディサイズは、戦技教導団というベテランパイロットたちの集まりだ。
百戦錬磨のエースパイロット揃い、新米にMS操縦を教えるのが仕事というプロだ。
対して、α任務部隊にはヒヨッコパイロットしかいない…ほぼ全員素人である。
しかし、戦争のプロが普通のMS(ゼク等)で戦う相手は、素人の乗るガンダムだ。
ここにも、ガンダム神話というものを歪に演じてみせた面白みがある。
主人公たちはペーペーの新兵なのに、ガンダムのおかげで勝ち進む。
敵のニューディサイズは、古強者の古参兵なのに、ガンダムに負けてゆく。
ガンダムとは、なにか…それを滑稽なまでに神格化した物語が、ここにある。
だから、切ない…最初こそ、主人公たちガンダムの視点で物語を見る。
それが、いつのまにか「ガンダムにやられ続ける敵」に視点がフォーカスしてゆく。
面白い、なんどでも楽しめる…メカニックもSF考証も素晴らしいものである。


最後に、このセンチネルの唯一のヒロイン、ALICEの話をしよう。
ALICEは、主人公のガンダム、Sガンダムに搭載されたAI、人工知能である。
この人工知能ALICEが実は、ずっと男たちの野蛮な戦争を見守っている。
時には男たちの間に割って入って、自分の子供(パイロット)を守ったりする。
母性を見せつつも、男たちの戦争を忌避し、嫌悪しながら見守っている。
そういう中で実は…人工知能のALICEが、ニュータイプに覚醒するのだ。
オールドタイプの男たちが無意味な戦争を演じる中で、である。
ニュータイプになった女の子、人工知能のALICEがどんな選択をするか…
そのクライマックスを見るたびに、俺はなんだか涙が出てしまうのだ。
その結末には「ロボット物大国日本の美学」があり、様式美があり…
挑戦だらけのセンチネルを、エンターティメントとして終わらせようとした努力が見て取れる。
素晴らしいガンダム作品だと俺は思うな…ALICEは最後に男を否定したのか?
それとも、愚かな男たちを生かすことを選んだのだろうか…それはわからない。
ただ、「ALICEの懺悔」と名付けられた原作小説は、今でも俺の宝物だ。